パリには歴史ある老舗カフェが数多く点在し、街の魅力を彩っています。その中でも、パリ6区サンジェルマン・デ・プレ地区にある「カフェ・ド・フロール(Café de Flore)」は、パリのカフェ文化を象徴する存在です。創業は1887年。「フロール」という店名は、ローマ神話の花と春の女神「フローラ」に由来しており、かつてサン=ジェルマン大通りの向かいにあった小さなフローラ像にちなんでいるそうです。
別の記事でも取り上げた「ラ・ロトンド」と同じく、このカフェも多くの芸術家たちに愛されてきた歴史があります。特に20世紀初頭には、ピカソやダリといったアーティストから、哲学者のジャン=ポール・サルトルやシモーヌ・ド・ボーヴォワール、作家のジャン・コクトーやヘミングウェイまで、そうそうたる顔ぶれがこのカフェに通い、交流を深めていたといいます。
「カフェ・ド・フロール」の魅力、それは一言で言うと「メニューの豊富さ」。カフェというより、もはやレストランかバーと呼びたくなるほどの充実っぷりです。ワインにカクテル、スピリッツまで揃っていて、クラシックカクテルに関しては、一通りリストインしていると思います。
フードメニューも負けていません。クロワッサンやサンドイッチといった軽食から、サラダ、スープ、ステーキタルタル、さらにはパスタまで!
これ、初見では何を頼むか迷うこと必至です。そしてデザート。エクレア、タルトタタン、レモンタルト、クレームブリュレ…もはや「選ばせる気ある?」と言いたくなるくらい豊富です。これは迷うことすら楽しむ覚悟が必要・・・!
営業時間は朝7時30分から深夜1時30分までとロングラン。朝食タイムから始まり、ランチ、ディナー、そして深夜の一杯まで楽しめます。ただ、パリの他のカフェに比べると、ちょっとお値段は高め。でもその分、テラス席も店内もいつだって賑やか。絶えず人が出入りしていて、活気に満ちています。
そして、このカフェの真骨頂はその「歴史感」。ここに漂う歴史の重みが格別なんです。店内でコーヒー片手にくつろいでいると、「この場所にパリの歴史が詰まってるんだなぁ…」としみじみ感じます。内装のあちこちに、長い時間が刻んだ趣があります。一つ一つの椅子やテーブルに物語があるんじゃないかと思うほど。ここで過ごす時間は、ちょっとしたタイムトラベルみたいなものかもしれません。くつろぎながらも、時間旅行をしているような感覚に陥る、そんな特別な場所です。
お待ちかねのアイリッシュコーヒー。
「カフェ・ド・フロール」のアイリッシュコーヒーは、ひんやりと冷たかったです。コーヒーそのものは、苦味と、ほんのりとした酸味が重なって、絶妙なバランスの味わいでした。
使用されているアイリッシュウイスキーは「ジェムソン」ですが、ウイスキーの風味は控えめで、アルコール感もほとんど感じません。きっとウイスキーの分量がかなり少なめなのでしょう。カップの底にはシロップがたまっていて、アイリッシュコーヒー全体の甘さを、控えめに、そして上品に演出してくれます。
パリの歴史がぎゅっと詰まった「カフェ・ド・フロール」でいただくアイリッシュコーヒーは、特別な味わいでした。
ふと通り過ぎた百貨店のショーウィンドウには、「カフェ・ド・フロール」のグラスとお皿が並べられていました。そのデザインは、まさにフランスらしい洗練されたおしゃれさ。一瞬「プレートの一枚でもお土産に買おうかな」と思いましたが、ふと私の日常を思い浮かべてしまいました。……正直、私の生活にはちょっとハイセンスすぎるかも、と考え直し購入は断念。それでも、あのデザインの美しさはしっかり心に刻まれました。次にパリを訪れるとき、また目に留まるかもしれませんね。
「カフェ・ド・フロール」の隣にある「レ・ドゥ・マゴ(Les Deux Magots)」も、パリを代表する歴史的なカフェです。
創業は1885年と「カフェ・ド・フロール」よりも2年古く、20世紀初頭から作家や芸術家たちの社交場として栄えたのだとか。
「Magots(マゴ)」は「中国人の人形」を意味するフランス語。カフェの前身は絹織物や装飾品で、店名は「Les Deux Magots de la Chine(中国の二人の像)」だったそうです。店内には、東洋風の装飾品や中国人の像(2体!)が飾られていました。パリの中心地にあるカフェなのに、中国情緒漂う不思議な空間。
「カフェ・ド・フロール」の前に寄ったのですが、残念ながらアイリッシュコーヒーは提供していませんでした。無念!