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タスマニア旅行2日目。滞在先のワラン(Warran)というエリアから州都ホバートに移動し、ベルグローブ蒸留所へ向かいます。宿泊費をケチるためにホバート中心地から外れたシェアハウスに2日間ステイすることにしましたが、ちょっと後悔。
さて、今回の旅の目玉といっても過言ではないベルグローブ(Belgrove)蒸留所について。ベルグローブ蒸留所は、オーストラリア国内でもユニークなウイスキーを生産している小規模のウイスキー蒸留所。主にライ麦から造られるライウイスキーを生産しており、「サステナビリティ」を大切にした運営をしていることで知られています。
小規模(創業者を含め3人のみで運営しているそう)ながらファンも多く、私の周りにもベルグローブ蒸留所を愛してやまないベルグローブ愛好家がいます。
まずはホバートからバスでケンプトン(Kempton)まで移動。50分ほどバスに揺られ、ケンプトン(Kempton Hall northbound)で下車し、そこから45分ほど歩きます・・・。タスマニアのウイスキー蒸留所めぐりは車がないと少し大変・・・。
ちなみに、ケンプトンには長い歴史を誇るオールドケンプトン蒸留所があります。バスを降りてすぐのところにあり、車がなくてもアクセスしやすいです。
長閑な一本道を歩くこと45分、ベルグローブ蒸留所の玄関が見えました。蒸留所自体は、玄関より奥にあります。気さくでエネルギッシュなスタッフの方が出迎えてくれ、車で蒸留所に向かうことに。
訪れた日はちょうどタスマニアンウイスキーウィーク(毎年8月頃に開催されるウイスキーのイベント)で、どこの蒸留所も多忙のなか、今回の訪問を快く受け入れてくださったことに感謝! 数時間かけてガイドすることもあるらしいですが、今回は時間の都合上、45分とやや短めの滞在となりました。
一見、蒸留所とは思えないような佇まいのベルグローブ蒸留所。穀物の収穫から糖化、発酵、蒸留、そして熟成まで一気通貫で行っています。栽培している穀物は主にライ麦のほか、スペルトやオート麦、そして大麦。ベルグローブ蒸留所はウイスキーメーカーであると同時に、農家でもあるとのこと。
そして「サステナビリティ」「持続可能性」を重んじている同蒸留所ですが、ひとたび足を運べばそのわけがよく分かります。あらゆるところに、サステナビリティに対するこだわりがありました。
まずは製麦、モルティングについて。ベルグローブでは、あえて15%~20%しか発芽させません。残りは未発芽のもの。未発芽のライ麦が、ウイスキーの風味をつくるのだそう。そして、麦を発芽させるために使用するのはなんとドラム式乾燥機!
さらに驚きなのが、ウイスキーに独特のスモーキーなフレーバーを与える「ピート」の代わりに、最近では羊の糞を主に使用しているところ。農場で得られる羊の糞を乾燥させ燃やすことで、草や土、そしてほのかな甘みを持った独特のフレーバーが生まれるそう。
ピートも実際使用しているようですが、ピートは泥炭、つまり化石燃料であるため燃焼の際に二酸化炭素を放出します。羊の糞を燃やしても同様に二酸化炭素が排出されますが、生物由来の燃料はカーボンニュートラルと言われており、環境負荷が低いとされ、持続可能なエネルギーとされています。
実際、ピートを嗅がせていただきましたが、強いスモーキーな香りはなく、ほのかに香りのある土という印象でした。香りは、スコットランド産の一般的なものとは異なります。さらっとしていて黒っぽい見た目。このピートはとてつもなく古いマヌカハニーの木が泥炭になったもので、なんともオーストラリアらしいですね。ちなみに、タスマニア産のピートをウイスキーに使用する蒸留所はタスマニアで3つしかないのだとか。
ベルグローブ蒸留所の「サステナビリティ」へのこだわりは、これだけではありません。ウイスキー製造には多くのエネルギーを必要としますが、化石燃料を極力使わず、薪や太陽光、そして廃棄油を熱源としています。この薪はもちろん、近くにとれるもの。
そして廃棄油は、地元のフィッシュアンドチップス屋などから調達しており、この油を濾過して燃焼させることで、熱源として再利用しています。この廃油は高温で加熱されているため、再度燃焼させる際のエネルギー効率がよく、燃料として使用するのに適しているのだとか。
また、ウイスキーの製造にはエネルギーだけでなく多くの水を必要としますが、仕込み水は雨水を利用しています。少し汚いイメージを持つ方もいるかもしれませんが、南極に近いタスマニアは大気汚染の影響が少なく、また南極から吹く冷たい風が空気を浄化する役割を果たしているため、タスマニアの雨水は世界でも特にクリーンであると言われています。
ライ麦の発酵過程。麦とは思えないような、甘酸っぱい梅のような香り! 今までたくさんの蒸留所で発酵途中のもろみの匂いを嗅いできましたが、一番フレッシュでフローラルな香りがしました。
ライ麦は涼しく湿った気候に適用しやすく、タスマニアでも栽培しやすい作物であり、ここでは地元のライ麦100%のウイスキーをメインに造っていますが、ライウイスキーの製造は非常に難しいことで知られており、モルトウイスキーと比べても手間がかかります。
また、未発芽のライ麦が全体の8割ほどを占めるためか、発酵にかかる時間も長く、3週間ほどかかるようです。ちなみにファーメンターは、南オーストラリアのワイン樽でとても大きなもの。
スピリッツの製造には、単式蒸留器・ポットスチルを使用します。500ℓほどのサイズのこの銅製ポットスチルは、廃棄油を使用したバイオ燃料で直接加熱する仕組みになっているもので、オーストラリア国内で造られているそう。
また、このポットスチルは非常に高温(なんと800度!)になるため、非常に早く蒸発が進みます。また、凝縮は室温で行われるため、多くの成分が気体のまま逃げてしまい、全てを液体に変えることができません。
ライ麦100%のニューメイクスピリッツ。力強くも素晴らしい香味があります。これは72度ほどですが、50度になるまで加水され、「WHITE RYE」として販売されます。
樽熟成をしていないこのニューメイクスピリッツですが、ドライフルーツのような香りがあり、パワフルながらスパイスやマンゴーを思わせるような繊細な味わい。まるで上質なグラッパのよう!
とても驚いたことに、スピリッツカットを4回もしているそうです。タスマニアでは気温がダイナミックに変わるという環境からスコットランドや日本のように長期間樽熟成ができないため、メタノールとアセトンなどを取り除くために通常3回のスピリッツカットを4回しているそう。
ちなみに、タスマニアで4回行っているところはベルグローブ蒸留所だけみたいです!
ウイスキーづくりのために道具・設備は買わない、そして仕込み水や燃料も地元で得られる再生可能な資源を用いるなど、地元密着型のサステナビリティに徹底的にこだわっているベルグローヴですが、まだスゴイところがあります。
近くのワイナリーやサイダリー(アップルサイダーを造っているところ)から廃棄予定のワインやサイダーを仕入れ、ベルグローブ蒸留所で蒸留し、それを製品化しているのです。美味しくないワインやアップルサイダーも、素晴らしいブランデーに生まれ変わることができるそう。廃棄される予定だったものが立派なスピリッツになるなんて、なんとも素敵ですね。
一通り説明を受けた後は、試飲をしたのちホバートに戻りました。どのウイスキーも香り高く、非常に味わい深いかったです。(もちろんボトルをその場で何本か購入!)
未発芽の穀物を多く使用していることや、スピリッツカットを4回していることも美味しさの秘訣だと思いますが、一番は超高温による蒸留が、風味を重厚にしていることが大きいのかなと感じました。
試飲レビューはまた別の記事に書こうと思います。