【Budapest】GERBEAUD

ブダペストが誇る老舗カフェ「GERBEAUD」

1858年創業。150年以上の時を刻む、まさに老舗中の老舗です。
ちなみに、「世界一豪華なカフェ」とも称されるブダペストの「NEW YORK CAFE」が開業したのは1894年。ジェルボーのほうが、実に36年も先輩です。

そんな名店が2009年には東京・青山にも進出。旗艦店(2号店)をオープンし、日本でも話題を集めました。

ただ、ひとつ残念だったのは、私の記憶が正しければ、東京店のメニューにアイリッシュコーヒーの姿はなかったこと。

――となれば、やはり本場まで飲みに行くしかありません!



このお店を創業したのは、菓子職人一家の三男だったヘンリク・クーグラー(Henrik Kugler)。

1858年にヨージェフ・ナードル広場に自分の店を構えたのが始まりで、当時は中国茶やロシア茶、そして「ペシュト一番」と評判だったアイスクリームが名物だったそうです。

※ペシュト(Pest)はドナウ川東岸に広がる地域で、1873年にブダなどと合併して現在のブダペストが成立しました。現在の「ブダペスト」という都市名もブダ(Buda)とペシュト(Pest)の名に由来します。



1870年、より街の中心部に近づけるために、ヴョロスマルティ広場へ移転します。ヴェレシュマルティ広場はブダペストの中心街、街歩きの起点ともなる場所で、クリスマスマーケットの会場とも有名です。

クーグラーのパイやミニョン(ハンガリーの伝統的な菓子)は評判を呼び、当時としては珍しく、紙トレイに包んで持ち帰ることができる店としても人気を博しました。常連客には、政治家フェレンツ・デアークや作曲家フランツ・リスト、さらにはハンガリー王妃エリザベート(愛称シシィ)もいたというのだから、驚きですね。



店内へ足を踏み入れると、上品で趣のあるアンティークの調度品や絵画、そして煌びやかなシャンデリアに目を奪われることでしょう。

1910年、建築家ヘンリク・ダリレクの助言のもと大理石やエキゾチックな木材、ブロンズを多用した内装に一新され、現在の天井のスタッコ装飾はルイ15世様式のロココ調、シャンデリアはマリア・テレジアの時代を思わせるデザインになったと言われています。

華やかな内装でありながら、その華やかさは決して驕奢なものではありません。

悠久の時を感じさせる品格が漂う一方で、ほんのりと退廃的な空気も宿している、その独特の雰囲気こそが、長い歴史を刻んできたGERBEAUDならではの魅力なのかもしれません。



Irish coffee 2,590HUF

撮影日(2020/03)

一瞥しただけで、このアイリッシュコーヒーの質の高さが伝わってきます。

まずは一口。

きめ細かく、このうえなく端正に泡立てられた生クリーム。まるで、水浴びをする白鳥のよう(?)です。

メニューを見ると、アイリッシュコーヒーのレシピには“frothy cream”とありました。“frothy”とは「泡の多い」「泡立った」という意味の形容詞ですが、その泡立ちがまた絶妙なのです。

あまりに舌ざわりが心地よく、思わず舌鼓を打ってしまいます。十分な甘味が感じられる一方で、生クリームがしつこくないため、するすると飲めてしまう。

生クリームの「冷たさ」「泡立てかた(固さ)」「甘さ」「ボリューム」、そのすべてにおいて、文句のつけようがありません。

コーヒーは深煎りならではの程よい苦味がありながら、甘みもしっかりと感じられます。アイリッシュコーヒーの味わいを支えるうえで、やはり「甘味」は重要なのだと、あらためて実感しました。



使用されているウイスキーは「ジェムソン」。しっかりとアイリッシュウイスキーの味わいを感じられますが、決して主張は強くありません。

ここまで上品なアイリッシュコーヒーは、日本ではなかなか味わえないでしょう。(もしかすると、ブダペストでも他店では味わえないかもしれませんが!)



栄耀栄華を極めてきた同店――と、ひと言で片づけるには、少々ほろ苦い歴史もあります。

「ジェルボー」は1948年、共産政権による国有化を受け、その名を詩人ミハーイ・ヴェレシュマルティにちなむ「ヴェレシュマルティ」へと改められました。

かつての名を取り戻したのは、1984年3月のこと。長きにわたる社会主義時代、西洋的とは言いがたい名を掲げながらも、店の格まで失ったわけではありません。ブダペストの上流階級が集う華やかな社交場として、変わらぬ存在感を保ち続けていたといいます。

かつては名だたる人物が足繁く通い、いまでは遠い島国から、アイリッシュコーヒーを愛してやまない異邦人まで訪れる。

時代に翻弄され、名前まで変えられながら、それでも店は残った。
できることなら、この先もずっと、その気品と甘美な時間を守り続けてほしいものです。



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