学生時代に1年ほど、バンクーバーに留学をしていたことがあります。
私はバンクーバーのバーやパブ、そしてカフェでたくさんのアイリッシュコーヒーを飲んできました。
正直、どこのアイリッシュコーヒーも似たりよったりなものでしたが、一つだけ群を抜いて美味しかったアイリッシュコーヒーがあります。
バンクーバーのガスタウンにある、『THE IRISH HEATHER』のアイリッシュコーヒーです。
ガスタウンは、美味しいことで有名なレストランやカフェが多く、観光客もたくさんいるところです。
ここでアイリッシュコーヒーを飲んだのは随分前、3年ほど前になりますが、当時のことを今でも鮮明に覚えています。
バンクーバーに住んでまだ1か月少しの時分だったので、英語が思うように伝わらず、人と簡単なコミュニケーションをとるだけで困憊し、とにかく心労が絶えない時期でした。
季節は3月中旬。何事もうまくいかず、この頃は気が少し滅入っていました。
群青色に満ちた気分のまま、深い理由もなくフラっと入ったカジュアルなビアバーで、こんなに美味しいアイリッシュコーヒーが飲めるとは思っていませんでした。
私にとって、ここのアイリッシュコーヒーは少し特別な存在になっています。
IRISH COFFEE CAD10.25(当時レートで約877円)
オーナーと思しきカナダ人の男性が、手際良く、サッとつくってくれたアイリッシュコーヒー。
シンプルで奇をてらわない見た目ですが、洗練された美意識が宿っています。
一口飲むと、私が前に通っていたバーのマスターがつくるアイリッシュコーヒーの味に似ていてびっくりしました。
とても懐かしい味がしたのを覚えています。
バンクーバーのカジュアルバーのアイリッシュコーヒーの味が、日本のオーセンティックバーのアイリッシュコーヒーを彷彿とさせるなんて、なんだか狐につままれたようでした。
ウイスキーの存在感がしっかり感じられるアイリッシュコーヒーです。
一杯飲み終わるころには、充実した陶酔感があります。
少しだけ、心が晴れやかになって、店を後にしたのを今でも覚えています。
コーヒーにウイスキーと砂糖を入れて、上に生クリームをのせただけの飲みものといってしまえばそれまでですが、
たかがアイリッシュコーヒー、されどアイリッシュコーヒーなのだとしみじみ思います。